小学館ファミリーネット 2017年度小学一年生モデル

小学館ファミリーネット

第1話
「たまごボールと短冊(たんざく)のタグラグビー」

春がきた。

東京・青山の秩父宮(ちちぶのみや)ラグビー場。グラウンドそばのピンク色の桜は七分咲きで、風もなんだかやわらかくなった。ウグイスが鳴く。

ねずみ色の空。太陽はみえないけれど、子どもたちが雨上がりのぬかるんだグラウンドを元気に走りまわる。たまごみたいにヘンテコなだ円の白いボールを抱え、みぎへ、ひだりへ、そしてまっすぐ。

「うわぁ」

「はや〜い」

女の子が髪をなびかせて走りぬけると、まわりでおうえんする男の子たちの歓声があがる。

「いいぞ〜。はしれー」

「みぎ、パス。みぎ」

「タグッ!」

みんな、ひらひらのタグと呼ばれる短冊みたいなオビを腰の両側につけている。赤色、青色、グリーン。それをとられると立ち止まって、すかさずボールをチームの仲間に渡す。もらった男の子が走る。

止まって、つなぐ。パス。たまごのボールがくるっくるっくるっとのびていく。また走る。パス、パス、パス。ラン、ラン、ラン。

ボールを抱えた女の子がコートのはしっこに、いきおいあまって転がりこむ。

「トライ!」

2010年2月28日。日曜日。タグラグビーの“サントリーカップ”第6回全国小学生選手権。予選参加が全国で2000チーム近くもあり、うち16チームがここに勝ちあがってきた。だから、どのチームもつよい。はやい。カッコいい。

タグラグビーとは、タックルのないラグビーのこと。ラグビーって、サッカーとちがって、手も足もつかってOK、パスやキックでボールをつないでいく。タグラグビーでは人にぶつかるタックルの代わりにタグをぬきとる。人にぶつからないから、ケガがおこりにくい。女の子もへっちゃらなのだ。

南関東ブロック代表が神奈川県の横浜市立汐入(しおいり)小学校の『リトルベアーズ』。男の子と女の子の5、6年生があつまっている。これまで2度も日本一になった汐入小学校が中心の『ホワイトベアーズ』の流れをひきつぐ。

ことしのチームは小がらな子がおおいから、ホワイトベアーズではなく、リトルベアーズという名前で参加した。ちなみに汐入小学校の3、4年生チームが『グリズリーズ』、1、2年生チームは『泣き虫クラブ』という。すぐ泣いてしまうからだろう。

試合は、7分やって、1分休んで、また7分。リトルベアーズの熱戦がつづく。きたえ抜かれた活力でフィールドをせいあつする。

ハーフタイムと呼ばれる1分間の休み時間のときに、いっしょについてきていたコーチが子どもたちに声をかけた。

「いままでの練習を思い出してごらん。いつもみんなでやってきたでしょ? それを出すんだ。いつもどおりやればいいんだよ!」

そのコーチが、むかしの汐入タグクラブのエース、鈴木彩香(すずきあやか)だった。

ニックネームは「アヤカ」。いまは女子ラグビーの7人制日本代表のキャプテンをつとめる。2016年リオデジャネイロ・オリンピックに向け、ラグビー仲間の期待を背負っているハタチの指令塔(しれいとう)である。

関東学院大学の2年生。168センチ、60キロ。街でモデルのスカウトを受けたこともあるほどの美人だけれど、オトコよりもラグビーに夢中。恋人は「だ円のボール」。ラグビーのプレーこそが、アヤカの青春である。

夢はオリンピック。肩までのびた薄い茶髪。切れ長のうるんだひとみに力をこめ、後はいたちにはっぱをかける。

ピーッ。ノーサイド。タグラグビーはラグビーといっしょで、しあい終了を「ノーサイド」という。

汐入リトルベアーズは優勝した。どろんこの子どもたちも、かんとくの鈴木雅夫も感激してポロポロっと涙をおとした。

「いや、もう、感動だった」

アヤカも目元があかい。

ちょっと話を。どんなことを子どもたちに言ったのか。

「(かんとくの)おじさんがおこると、子どもたちはシュンとなる。だから、わたしはモチベーションがあがるようなことを言ってあげたかった。自分が小学生のとき言ってもらえたら、がんばれたようなことを思い出して、子どもたちにアドバイスを出したの。最後は“みんな楽しんでやろうよ”って」

ところで。

タグラグビーとは。

「わたしの原点です」

アヤカは目を閉じる。だ円のボールに出会った13年前の記憶がよみがえる。

第2話に続く

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ラグビーガールズ 鈴木彩香 第1話「たまごボールと短冊(たんざく)のタグラグビー」

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