小学館ファミリーネット 小学一年生

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第3話
「悪童にも負けず」

子どもたちは、かん声をあげながら下谷野第二公園のなかを走りまわっていた。

冬場は日が沈むのがはやい。でもあたりが暗くなっても、タグラグビーをつづける。おもしろくてしかたなかった。

ただ、ちいさくはない『紛争』がぼっぱつする。公園のそばの家の人が「うるさいっ!」と怒るようになったのだ。町内会の役員という人もコワい顔で乗り込んできた。

「おたくね、子どもの声がうるさくてしようがないんだ。それに子どもたちが遊んだら、公園が汚くなるんだよ」

そんなムチャクチャなことがあるもんか、とおじさんこと鈴木雅夫はおどろいた。

「だって公園は遊ぶところでしょ。なのに、遊ぶな、声を出すな、だなんて。子どもたちに、お前らが遊ぶから汚れるって言っても、公園に落ちているのはタバコの吸いがらやビールの空きカン。子どもたちには関係ない。ようするに子どもたちを公園から追い出したかったんだ」

それからだ。タグラグビーをする前、子どもたちはまず、公園のゴミひろいをするようにした。日が沈むと、声を出さないように注意して遊んだ。でも、つい声が出る。そんなときは、みんなで「シー」と人さし指を口につけた。

町内会の役員のほか、悪童たちもじゃましにくるようになった。とくに役員の子どもがたちが悪かった。

子どもたちの世界にも「しがらみ」はある。タグラグビーの仲間にはいれない子たちには“やっかみ”があったのだろう。野球の練習だと言って公園でわざとバットを振りまわす。サッカーボールをけって妨害する。

悪童たちは主張するのだ。「ぼくたちも公園で遊ぶ権利があるんだ」と。

でも、おじさんは反論する。

「じゃ、民主主義だ。人数に合わせて公園を分けよう」

タグラグビーで遊ぶ子どもたちの数が圧倒しているから、当然、大きなスペースを使うようになる。すると、悪童たちは「なんだよ、それ」って文句言いながらタグのだ円のボールをけ飛ばすのだった。

じつは、子どもたちの上下関係がきびしく、下級生は上級生から「使い走り」のようなことをさせられていた。つまり子分だ。その子分たちがタグラグビーに夢中になると、上級生としてはおもしろくない。

いざこざは絶えなかった。何人かの子どもたちは学習塾の前、自転車を公園の横に並べてタグラグビーをする。終わって、さあ塾にいこうとすると、自転車のカゴに入れていた勉強道具がなくなっていた。

悪童たちがとっていく。あるいは道ばたにすてられてしまう。そろばんの道具がそばの鶴見川に投げ込まれていたこともあった。

でもアヤカは特別だった。上級生から、いじめられなかった。2つ上の兄、勇毅(ゆうき)がいたからだった。

アヤカは言う。

「けっこう、言葉づかいとかきびしくて、子どもでもセンパイにはちゃんと“○×さん”と敬語をつかうんです。でも、わたしはセンパイにも“○×ちゃん”って。いじめられることもなかったなあ」

アヤカの楽しみは、タグラグビーのあとの買い食いだった。公園の前の細い道を左へいって、右に折れたところにおでん屋があった。寒いと、おこづかいを持って、そのおでん屋にいった。ウインナーが30円、ダイコンが40円、つみれが30円…。

「いつも必ず頼むのが、ダイコンとつみれでした。よくおばちゃんがコンブをおまけしてくれた。自転車の台とかにみんなですわって、友だちと話をしながらおでんを食べるのがたのしかったんです」

仲のいい子どもたちは、おでん屋のあと、細い道をひとつへだてただがし屋にもいく。オロナミンCを飲みながら、チョコレートのチョコパットを食べる。「ブタメン」という小さなカップラーメンがアヤカの好物だった。

よくおじさんがおごってくれた。

「おじさんって気前がいいんです。だから、おばさんにおこられる。“あんた、あんまり調子のるんじゃないよ”って。そしたら、“すいません”って。あはは」

空には月。店先にはだいだい色の電灯。やさしい光が、白いボールとおじさんと子どもたちの笑顔をつつんでいたのだった。

第4話に続く

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ラグビーガールズ 鈴木彩香 第3話「悪童にも負けず」

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