小学館ファミリーネット 2017年度小学一年生モデル

小学館ファミリーネット

第5話
「鈴木家の運動会」

アヤカは1989(平成元)年9月30日、横浜市で、父・英夫(ひでお)と母・紀子(もとこ)の長女として生まれた。

長男の勇毅(ゆうき)の2つ下。『彩香(アヤカ)』の名前には「彩って香るような女の子になってほしい」との母の思いが込められている。(※「彩る(いろどる)」=美しくかざること)

1954(昭和29)年生まれの英夫はちかくにある青果市場の野菜のおろし売り会社で働く。毎朝3時半には起きて、4時前に家を出ていく。アヤカが子どものころはいつでもいっしょに目をさまし、「パパ。いってらっしゃい」と声をかけてくれたのだった。

英夫は細身ながら、きん肉しつな体けいである。けんこう的な顔色。うすいくちびるがアヤカと似ている。どこか物静かなふんいき。

アヤカの話になると、メガネの奥のやさしそうな目を細める。

「小学校まで、ずっと同じフトンで寝ていたんです。子どものころはお風呂だって一緒にはいっていました。もう、かわいくて、かわいくてしょうがなかった」

鈴木家はスポーツを大事にした。英夫が子どものころは、みんな、野球が好きだった。地元の鶴見工高時代も野球に熱中し、『甲子園(こうしえん)』を夢見ていた。1年生からレギュラーとなり、「一番・ショート」で活やくする。

家の居間には今でも高校3年の夏の神奈川県予選大会の新聞記事がかざってある。古びた新聞紙の写真にうつっているのは17さいの英夫である。湘南高校との3回戦。えん長戦の10回の打席で、こしをぐいと落とし、決勝打となるタイムリー二るい打をはなっている。

「野球一色の青春でした。自分で言うのもなんですが、けっこういい選手でした。夏の大会が終わって、じん臓を悪くして、3か月間ほど入院して…それでアウト。ノンプロぐらいにはいきたかったのですが」

甲子園の夢は果たせず、野球もあきらめた。だからだろう、人一倍スポーツを愛し、子どもたちにも「勉強ができなくてもいい。スポーツをしろ」と言い続けてきた。

「カネは関係ありません。子どもたちには好きなことをやらせてあげたい。自分はからだをこわして野球を続けることができなかった。だから子どもたちには好きなスポーツをとことん続けてもらいたい」

そんな鈴木家の夕食後の日課が「ボールごっこ」だった。居間で黒色のちゃぶ台をすみに寄せて、6じょうのたたみ部屋の真ん中で、英夫が赤色や黄色のカラーボールをぽんぽんと左右にトスする。ひざを立ててすわっているアヤカや兄の勇毅がキャッチして父に軽く投げ返す。これをくり返す。いわゆる野球の「ペッパー」。

英夫はときにフェイントをかける、ときに遠くへ投げる。親子ともマジになっていく。

「遊びですけど、運動神経がよくなるかなと思って、アヤカが幼稚園のころからやっていました。右に投げるふりをして、左にポトンと落とす。手前に落とすとみせて、遠くへ投げる。これは絶対、とれないだろうというギリギリのところに投げるのです。もう、こちらも必死でした」

アヤカがいきおいあまって頭を柱にぶつけてタンコブをつくる。頭からふすまに突っ込んだこともあった。

「ふすまにあなを開けたり、へこませたり。だから家内(かない=妻:つま)はやらせたくなかったみたいですよ。ははははは」

たしかに家の中はあちこちいたんだ。でもアヤカたちの足腰がいつのまにかきたえられていく。俊敏性(しゅんびんせい)や判断能力をやしなうトレーニングになっていたのだった。

父の記憶では、アヤカは負けじだましいのかたまりだった。

「おにいちゃんが先にやると、アヤカが“アヤもやる”とくる。おにいちゃんが30分したら、アヤカは1時間でも終わろうとしない。おもしろいから、ちっともやめようとしないのです」

あるいは家族団らんで、テレビのナイターをみる。父の英夫はアンチ巨人だった。横浜など、対戦相手が点を入れたら、応援ソングのリズムを大声で歌いだす。ブラウン管のなかの選手がダイヤモンドを一周する間、アヤカと勇毅がちゃぶ台のまわりを全力でぐるんぐるんとかけ回る。

アヤカが幼稚園や小学生のときは毎晩、自宅でちいさな運動会をやっているようなものだった。

第6話に続く

「ラグビーガールズ」トップへ

【ラグビーガールズ 鈴木彩香】2列目右から5人目がアヤカ。
▲2列目右から5人目がアヤカ。
※画像をクリックすると拡大します。

【ラグビーガールズ 鈴木彩香】アヤカの運動神経は父・英夫ゆずり。
▲アヤカの運動神経は父・英夫ゆずり。
※画像をクリックすると拡大します。

【ラグビーガールズ 鈴木彩香】2つ上の兄・勇毅に負けない根性のもちぬし。
▲2つ上の兄・勇毅に負けない根性のもちぬし。
※画像をクリックすると拡大します。

【ラグビーガールズ 鈴木彩香】でも、ふだんは仲の良いきょうだい。
▲でも、ふだんは仲の良いきょうだい。
※画像をクリックすると拡大します。