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第二章・第7話
「充実と反省のリスタート」

2012年が明けた。

1月某日。めずらしく東京に雪が積もった日、『女子7人制日本代表候補』の合宿がはじまった。なぜか身が引き締まる。

西が丘の味の素ナショナルトレーニングセンターである。二面のハンドボールコートがつくられた室内にラグビーガールズの熱気が充満する。アヤカの声が響き渡る。

「みんな、声を出そう!」

朝6時半からの早朝練習と午前、午後の3部練習が続いている。テーマが「持久力アップ」。ハードなメニューが続き、だれもが疲労の蓄積でフラフラの状態だった。

恐怖のシャトルランで走って、走って、走り続ける。終われば、黒いヘッドキャップをかぶり、1対1のタックル練習に移る。グリーンのハンドダミーにぶつかる。手より足と肩が先だ。からだを低くしてしっかりヒット、足を力強くかいていく。

アタック&ディフェンスでは、本番さながらの抜き合いが繰り返される。パスして、フォローして、またパス。ボールを落とすと、その場でチーム全員が腕立て伏せの罰則をくらうのだ。「イチ、ニッ、サン、シッ…」。


濃密な練習が終わる。アヤカは床に座りこんで、入念なストレッチをはじめた。苦しそうだけど、顔には充実感が浮かぶ。

なんだか明るい表情ですね、と聞く。

「ほんとですか。やっと肩の荷が下りて。きつくても、いまはラグビーを楽しめる喜びのほうが大きいですね」

そうなのだ。アヤカにとって、久しぶりの代表合宿である。昨年は重い1年だった。けがの後遺症に苦しみ、秋の海外遠征の日本代表メンバーから外れた。辛くて哀しくて苦しくて。でもその分、成長もした。

自分の弱点がわかった。

「自分の中で何かが変わりました。弱かった部分を見つけて、それを認めることができた。いままで、わたしは弱い部分を隠して強がっていただけなんです。でも弱点を自分で肯定できたので、謙虚に次につながるトレーニングができています」

この春の関東学院大卒業後の進路もほぼ固まった。就職はしない。まだ決まっていないが、立正大学の大学院に進み、同大学のラグビー部で自分を磨いていく見通しだ。女子日本代表の宮崎善幸ストレングス&コンディショニングコーチの所属する大学で、課題のフィジカルアップには絶好の環境となる。

練習は、男子部員と一緒にすることができるだろう。女子選手としては、タグラグビーからずっとコンビを組んでいた4つ下の後輩、SH鈴木陽子(横浜市立東高校3年)も立正大学に進学する見通しだ。

うまくなりたい。強くなりたい。悩んだ末の決断だった。

「自分たちよりうまい人たちとやらなかったら、世界で一番にはなれないと思ったのです。女子と一緒にやるより、男子に交じってやったほうが成長できるかなって。しかも立正大学には自分を受け入れてくれる態勢、ラグビーをしっかりできる環境が整っていると思ったのです」

進路が固まったからだろう、すっきりした顔をしている。目に迷いがない。目標をギュッと定めたときの、いつもの鋭い目である。


合宿の最終日。

場所を辰巳の森海浜公園ラグビー場に移し、7人制日本代表選考のための紅白戦がおこなわれた。快晴。昼過ぎから風が吹き出し、急激に冷え込んできた。

寒風の中、20数名が3チームに分かれ、次々と試合をしていく。赤色ジャージの背番号「5」。アヤカはカラダを張った。

いきなりハンドオフを食らったけれど、あきらめずに追いかけて、タックルで倒した。こぼれ球にも飛び込み、ラックで懸命に足をかいた。万事に全力。

スペースをついてトライもあげたけれど、むしろディフェンスや地味なプレーに成長の跡がみえた。走り込みで足腰もたくましくなった。22歳。挫折(ざせつ)を経て、ラグビー選手として、ひと皮むけたのだろう。

もっとも、試合後、アヤカは少し気落ちしていた。右足首には氷入りのビニール袋を巻きつけている。

「ダメ…。全然、自分の持ち味をだせなかった。まったく抜けなくて、自分の仕事ができなかった。反省しています」

100点満点で自己評価すると。

「マイナス20点!」

マイナス? と聞き返せば、深いため息をつく。

「そう。マイナスです。まだまだだな、と思う。もうボロボロです。どこもかしこも」

勝負の世界はきびしい。ふるいにかけられたが、ぐっと踏ん張って、2月の米国ラスベガス7人制大会の日本代表派遣メンバーの切符をつかみとった。


いずれにせよ、アヤカにとって節目の年である。心はラグビーにのみ向かっている。「世界で一番」となるため。

「ま。自分の中では新たな始まり、“リスタート”みたいな感じなんです」

すなわち再スタート。新年。心の中で、世界に向けたホイッスルが鳴る。

最終話に続く

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