小学館ファミリーネット 2017年度小学一年生モデル

小学館ファミリーネット

第二章・最終話
「誓いの門出。五輪金メダルを夢見て」

空が泣いている。アヤカも泣いている。みんな、感激で泣いている。

3月某日。房総半島の勝浦。山間の国際武道大学キャンパスのラグビー場である。どしゃ降りの冷たい雨が降り続く。強風が、見学者の傘をぐしゃぐしゃにする。

そんな悪天候でも、女子7人制日本代表候補の合宿は強行された。最後のセレクションマッチ。なかばプールのごとき水たまりができた人工芝で、女子選手たちがぶつかりあった。当たる。倒れる。また当たる。

ボールがすべる。ほとんどバウンドもしない。足元が重い。雨がほおをはげしく打つ。こんなとき、より大事なことは「集中力」と「正確なパスとキャッチング」である。代表選手を決めるセレクターはそこを、見る。

ブルーのジャージの背番号「1」、アヤカが水しぶきを上げながら走っていく。ボールを両手でていねいに持ち、幼なじみのマリエにパスをつなぐ。マリエが走る。走る。走る。そのまま、インゴールにダイブした。スプラッシュ・トライである。

「ナイス・マリエ!」と声が飛ぶ。アヤカがかけより、マリエとハイタッチした。アヤカもマリエも笑っている。思えば、小学生の横浜・汐入タグクラブ時代から、何度、同じようなシーンを見てきたことか。

豪雨の下、試合の合間にはフィットネス強化のためのトレーニングが科せられた。休む間はない。ひとりが青色のハンドダミーを持ち、そこにひとりがタックルして押し込んでいく。一度、腹ばいになって、立ち上がってはダミーにクラッシュだ。吐く息は白い。冷たい雨がジャージを通し、からだを芯(しん)から凍(こお)らせていく。


終わりだ。ついに1週間の合宿が終わった。薄暗い中に円陣ができる。スタッフも加わり、みんなで声を張り上げた。

「イチ、ニッ、サン、シッ」

「イチ、ニッ、サン、シッ」

「セブンズ・ラグビー」

「セブンズ・ラグビー」

うわぁ~。歓喜の爆発。選手たちは両手を雨空に突き上げ、絶叫した。

アヤカは思わず、涙を流した。

「ヤッターという感じです。達成感もあるし、ケガせずやり通せたとの安ど感もある。もう青春全開です。みんなで過酷(かこく)な練習を乗り越えられたんだって。感激の涙です」


門出の春を迎える。

女子ラグビーの日本代表候補たちは、それぞれの道を歩み始める。

22歳。アヤカこと鈴木彩香は関東学院大学を卒業し、立正大学の大学院に進む。汐入タグクラブ時代からずっとコンビを組んできた4つ下の18歳、日本代表候補の鈴木陽子は横浜市立東高校を卒業し、立正大学に入学する。つまりは、アヤカは陽子と同じところで練習していくことになる。

立正大学には、日本代表の宮崎善幸ストレングス&コンディショニングコーチが所属する。「フィットネスのアップ」を最大の課題とするアヤカにとっては賢明な選択だった。

向上心のかたまり、アヤカは新たな環境でのレベルアップを誓う。

「体力をつけ、きついときでも正確な動きができるようになりたい。決勝戦のラスト、そこで意識を飛ばさずに冷静にプレーできるようになりたいのです」

たしかにゲームメイクは安定感を増してきた。体力もついた。でもアタックとディフェンスのバランス。ピンチ、チャンスでの仕掛け、コンタクトスキル、プレーの精度はまだまだである。

日本代表とて、アジアの強豪の中国と比べると、体力、体格、スピードでは見劣りする。俊敏性、技術、運動量でカバーするしかない。すなわちフィットネス勝負である。もちろんチームワークや我慢するメンタル・フィットネスも大事にしていきたい。

マリエこと、22歳の山口真理恵はオーストラリア留学から戻り、女子ラグビークラブの「ラガール セブン」に入る。23歳の加藤慶子は三菱重工に入社する。それぞれのラグビーへの情熱が萎(な)えることはたぶん、あるまい。やがてひとつに結集し、日本代表を『世界』の舞台に押し上げていくことになる。


ことしの目標はまず、春の香港セブン、秋のワールドカップ(W杯)予選でのアジア1位突破である。視線の先には2016年のリオデジャネイロ五輪がある。

アヤカが言う。

「“なでしこジャパン”の優勝をみて、わたしたちにもできるんじゃないかと思えてきました。ラグビーもがんばって、オリンピックで金メダルをとりたい」

いいぞ。いいぞ。そうこなくっちゃ。夢はでっかく、『五輪金メダル』である。

「金メダルをとって、チームメイトとスタッフと、みんな一緒に大騒ぎをしたい」

願えばかなう、何事も。

アヤカが、ラグビーガールズが。

日本を元気にする!

おわり

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▲どしゃ降りの雨の中、休むことなくハードな練習がくり返される。【ラグビーガールズ 鈴木彩香】
▲どしゃ降りの雨の中、休むことなくハードな練習がくり返される。
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▲1週間の合宿がおわり、アヤカの顔にも笑みが浮かぶ。【ラグビーガールズ 鈴木彩香】
▲1週間の合宿がおわり、アヤカの顔にも笑みが浮かぶ。
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▲大親友のマリエと。ラグビーガールズの夢は広がる。【ラグビーガールズ 鈴木彩香】
▲大親友のマリエと。ラグビーガールズの夢は広がる。
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