小学館ファミリーネット 2017年度小学一年生モデル

小学館ファミリーネット


新しい辞書のかたち「コトバノチカラ」

さまざまな分野で活躍する方々に、「言葉がもつ力」「言葉の魅力」について語っていただきます。


第5回[インタビュー]伊藤 稔氏

伊藤 稔(いとう みのる)

1980年生まれ。同志社大学商学部卒業。2003年紀伊國屋書店入社。札幌本店配属、2010年新宿本店第二課異動後、翌年仕入課へ。日々入荷してくる書籍と格闘中。

紀伊國屋書店新宿本店ではtwitterID(@KinoShinjuku)で本の情報を発信中だそうです。本好きさんには見逃せない情報が山盛りです。
また、ほんのまくらフェアハッシュタグは(#hon_makura) 。「自分と同じ本を手に取る人を待ってる」「みんなで行かない?」といったお客さんたちのライブ感を楽しめます♪

実際にやってみましたダイエットフェア

紀伊國屋書店新宿本店では面白いフェアを常に実施中!
6階では「実際にやってみましたダイエットフェア」なんてのも発見! しげしげ見比べると、一番痩せていたのは2週間で2.4㎏の減。書名を教えろって? そんな野暮なことは言わず、実際に足を運んでお楽しみください。みなさんに合った一冊が見つかりますように!


紀伊國屋書店「ほんのまくら」フェア

暑い夏。東京新宿のある一角が妙に熱を持ってざわついている。老若男女問わず、一心不乱になにかを見ている。視線の先には100冊の文庫本。オリジナルカバーにくるまれた文庫本は作者もタイトルも装丁デザインも出版社もわからない。ご丁寧にラップまでかけてあり、見えるのは“カバーに印刷されたその本の「ほんのまくら(始まりの一文)」”。そして書店員さんによる手短な推薦文のみである。もちろんジャンルなどわかるはずもない。
人々は腰を折り、または少し爪先立ちになり、ある人は首をのばしてカバーの文章をなめるように読んでいる。1冊、また1冊。気になる本が見つかると、一足先に宝物を見つけたようにそそくさと文庫本を抱えてレジへ向かう───。

これは2012年9月16日まで開催されている「ほんのまくら」フェアという東京都、紀伊國屋書店新宿本店2階で行われている催事の様子。その特性から「本の闇鍋」と表現する人もいる。今、東京中の本好きたちが殺到しているこのフェア、仕掛け人である紀伊國屋書店の伊藤稔さんに話を聞いた。

■ネットが起爆剤! お祭り状態に驚いた

最初はそこまで売れると思ってやってなかったフェアなので、一種の遊びみたいなものだったんです。いつしか、お客さんもその遊びに乗って一緒に遊んでくれるみたいになって、お祭りになっているというのがあります。まさかこんなことになるなんてって。社内もびっくりしてます。「すごい」「なにがあったの?」って。

伊藤 稔


取り扱っている文庫本100冊は、主に棚差し定番書籍です。フェアをしていなかった時の売れ行きは、週に2~3冊程度かなあ。普段、平積みにしていない作品が多い。だから、フェアの最初のころ、出版社さんと発注のやりとりをするとき「あれ、なんでそんなに発注するんですか」「それ本当に売れるんですか」みたいなことを聞かれました。当初はフェア全体で、平日5日間10~20冊、週末30冊程度の売上でした。

それが、twitter注1やfacebook注2で一気に爆発してから売れ方が変わりました。すごい数twitterで広がった翌朝は、全体で770冊くらい売れて本が半分以上なくなって。で、追加注文した本が入ってきて、それでまた700冊くらい売れて…というのがあって。昨日あたり(8/20)は少し落ち着いて382冊くらい。コンスタントに毎日300冊くらいは出るようになりました。ネットの力ってすごいなと思いました。

紀伊國屋書店「ほんのまくら」フェア

こんなかんじで、完全防備! いっさい中は見えません。

紀伊國屋書店「ほんのまくら」フェア

8月8日は半分近くが売り切れ。未入荷状態の本たちの紹介文は、横に移動しています。
うーん、売り切れてると逆に気になるぞ……とばかりに目を通す人たちがチラホラ。

■7人の紀伊國屋書店精鋭が作り上げたフェア

元々タイトルを見せないで販売するっていうのをやってみたかったんです。2012年7月26日から開始したんですが、準備は……本の選定を合わせると4月から始めたので、3ヶ月かけてやりました。フェアを始めた後から知ったんですが、ちょっと似たようなフェアをブック・コーディネーターの内沼晋太郎さんがなさってたそうです注3


書籍を選んだメンバーは全部で6人です。「文庫担当」「文学評論担当」「社会科学担当」「海外店和書仕入れ担当」「文芸担当」そして私です。「海外和書仕入れ」担当のものは中東・アラブ首長国連邦のドバイ店で働いているので、メールでやりとりしました。特に何かのチームではなく、本好きな同僚に声をかけました。実際に、すごく本読むのが好きな人たちが集まったんじゃないかなと思っています。20代~30代くらいで、性別は偶然ですが女性3人、男性3人ですね。

紀伊國屋書店「ほんのまくら」フェア

ポスターやカバーのデザインは、紀伊國屋書店札幌店で一緒に働いていた元同僚の加賀谷くん。いまはデザインの仕事をしているので、彼にお願いしました。イラストも全部おまかせしました。カバーに“キャッチを入れずに「ほんのまくら」だけの方がいい”とかは彼のアイディアです。バーコードは削ろう、は一致した意見でしたね。
バーコードから、タイトルが分かると面白みが減りますよね。そのため、レジの処理はすべて手打ちです。うん、このフェア、結構大変なんですよ。カバーはひとつひとつプリントして、カットして、折って、カバー掛けて、パック入れて値札つける……。基本的には一円も高くなっているわけではなく、値段は同じで頑張っています。

■とっても気になる隠された100冊の中身

セレクションの基準は、いままで読んだ本の中で、まず「面白い」「ちゃんとお客さんに推薦できる」っていうこと。それと、その中でも「書き出しが面白いやつ」を探そうという基準で選びました。人によって40冊くらい挙げてくれて、一番挙げてないのは私なのですが15冊くらい。

なるべくいろんな著者の本を集めるため、ひとりの著者で1冊にしました。中には6人中2人が挙げた本なんかもあって、それはじゃあ入れとこうかということになりました。「くまにさそわれて散歩に出る。」は2人あげました。この作品は、フェアをやるとき最初に思いついた1冊です。あと、「いま、こうして私の生活が西瓜糖の世界で過ぎていくように…」も2人くらい挙げてたと思います。それから、メンバーの中で癒し系の本とされているのが「秋祭りの夜のシーン。ピーヒャラピーヒャラ、コンチキチンと、祭ばやしの中を浮かれて歩くオレ。」。

100冊は出版社も著者もバラバラです。著者さんの性別もバラバラ。亡くなってる方とかもたくさんいる。小説だけに限らず、エッセイ、思想書っぽいの、SFもあったりします。
いま一番売れているのは「あした世界が終わる日に、一緒に過ごす人がいない」。その次が「くまにさそわれて散歩に出る」ですね。
すごく長い「ほんのまくら」も、最初から入れたいなって思ってました。書き出しとして長いと、内容のインパクトが弱くなるかもしれないけれど「いや入れさせてくれ」って。いろいろな長さの「ほんのまくら」があると、店頭での印象が面白いんじゃないかと思います。もちろん、内容の面白さには自信を持っています。

■心の奥底に潜む「こういう本が読みたい」という願望

紀伊國屋書店「ほんのまくら」フェア

お客さんの反応は様々です。「普段自分が選ばない本を選んで面白い」「隠されてても、普段自分が選ぶ作家の本を選んじゃうんだな」なんていう反応とか。同じのを選ぶ自分が確かな目だ!と自信を深める方もいらっしゃいますね。「もう持ってるのを買っちゃったから、人にあげよう」と言っている方もいらっしゃいました。
きっと、読んだことがある本が、1冊や2冊はあるはずなので、それを探すのも楽しみだと思います。「あ、これ分かる!」と言う瞬間の気持ちよさですよね。だから、書名をオープンにするのは今のところ、考えていないです。


「普段読まない本を、よければ読んで欲しいな」というのがあって。失敗する楽しさとかも感じて欲しいんです。最近、どうしてもランキングの上位がどんどん売れていくっていう傾向があるんです。けど、そうじゃなくて。本というのは、それだけじゃなくて。ランキングには入らないし、自分でも気づいていないけれど、「実はこういうのを選んでみたい」という願望があったりするのではないでしょうか。直感で選んでいただくんで、失敗とかもするかもしれないです。けれど、そういうふうに失敗とかしながら本を選んでいく。そうすると、本当に読みたかった本って “得体のしれないところからやってくる” っていう可能性があるんじゃないかなと思ったりしています。

注1)ツイッター 【Twitter】
《小鳥のさえずり・おしゃべりの意》簡易ブログの一。インターネット上で、不特定多数の人に向けて140字以内の文(ツイート)を発信したり、また他の人の文を読んだりすることができるサービス。
注2)フェースブック 【facebook】
《Facebook》米国の代表的なSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の一。2004年、ハーバード大学の学生向けサービスとして始まったが、その後、全米の学生にも開放され、2006年には学生以外も参加できるようになった。

(『デジタル大辞泉』より引用)©Shogakukan Inc.

注3)ブック・コーディネーターの内沼晋太郎さんのフェア
2009年、ヴィレッジヴァンガード新宿マルイカレン店で行われた「覆面文庫本」フェア。ブック・コーディネーターの内沼晋太郎氏が仕掛けた。同じデザインのカバーをかけ、タイトルまわりを全く見えなくし、店員さんたちなどが書いた推薦文(POP)のみで本を選ぶフェア。

撮影・文/国語辞典編集部