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宮井紅於特設サイト トップ > 大賞受賞作「もちた」が分かる!歴代大賞受賞者が読む!
歴代大賞受賞者が読む!
中石海くん 第三回大賞受賞者 中石 海くん
 「もちた」を読んだ時、なんだか変わった物語だなあ、と思った。
 最初、タイトルを見ただけでは、どんな話なのか見当もつかなかったし。それにしても、まさか「もちた」が○○○のことだとは……

 読んでいるうちに、気味の悪いような、可愛いような「もちた」に、じわじわと物語に引き込まれていくような感じがして、新鮮に思った。
話の終わりに残った奇妙な謎も、不思議な感じがして良かった。

 それに、物語中の伏線も多い。

 エマさんの話していたことが、最後の方に行くに従って、次第に一つにつながって行くのは、読んでいて楽しかったし、なんか、すごいなあ、と感心してしまった。
「もちた」みたいに独特な雰囲気を持った物語は、いままで読んだことがない気がする。
たぶん、僕にはこんなのは書けない。

三船恭太郎くん 第二回大賞受賞者 三船 恭太郎くん
どんよりとした曇り空の日曜。いつもの書店。
僕の隣で立ち読みをしていたおじさんに、小学3、4年生くらいの女の子が駆け寄って来た。
「ねえ、お父さぁーん、どっか行こうよおー。もうあきた。それに、日記かけないしぃー」「ん?う〜ん」
おじさんは生返事をして本に目を走らせている。
女の子はおじさんの手にしている本の表紙を下から眺め、「つまんなーい、ねえ、日記…」と口を尖らせた。
おじさんはまた「う〜ん」と唸り、読み続けていた本のページをすばやく捲った。
本は東野圭吾さんの最新作。ますます口を尖らせた女の子と目が合う。
そうだよね。お父さんのお供の退屈な日曜では、日記に書くネタに困るかも。
でも、君のお父さんは日記にも書けないようなドキドキする世界に今、足を踏み入れているんだよ。
一人ごちて小さく頷いた僕を、女の子は不満そうな表情のまま見つめた。

「もちた」の主人公の初花も、刺激のない退屈な日々を過ごしている。
もし初花が日記をつけていたら、「今日も、何もなし」と一言だけ記してベッドに潜り込むのかもしれない。
そんな初花の前に現れた、手紙を括り付けられた一匹のとかげ。このとかげの登場で物語が一気に謎めいて、僕はぐっと引き込まれた。
もしこの手紙の運び役が律儀な犬だったら美談が展開されそうだし、ハトなら恋愛ものに発展しそう。
けれど、とかげ。
読み進むうちに僕は、初花が初めて夢中になった本を脇から覗き込んでいるような気分になった。
小説の中で、主人公が開いた小説のストーリーを一緒に追っていくような感覚、と言えばいいのだろうか。
その小説の水先案内人とでも呼ぶべき存在が、会社の先輩のエマさんだ。
ちょっと不思議なエマさんと初花の会話は、決して昼食どきに話すような内容ではないが、もはや初花の読みかけの小説の続きが気になって仕方がなかった僕は、ときに背中をゾクリとさせながらエマさんの話に聞き入った。退屈なOLという主人公に親しみを持てないかも、と思い読み始めたのに、なんだかすっかり感情移入してしまっている自分に気付く。

そうだ!今度また書店で見かけたら、あの子に教えよう。
この本を開いてごらんって。「もちた」が君の前に現れるかもしれないよ。
そうしたら、日曜の日記なんて楽勝だよって。
でも一つだけ言っておかなくては。
なるほど、上手いなあ、と僕が感じた場面。
「もちた」が「もちた」たる所以、そこの場面は気を付けて。
もし君が爬虫類好きなら大丈夫だろうけど、苦手な僕はグニュリとした感触を想像し、怖くて暫く掌を開けなかったのだから。

「もちた」試し読み