小学館ファミリーネット 小学一年生

小学館ファミリーネット



 「魚博士になる。」
 それが幼稚園生の時から変わらないぼくの
夢だ。
 ぼくは、小さい頃から「魚」が大好きだっ
た。
 三才の頃のある日、母と行った図書館で魚
の図鑑を借りた。そこには、多種多様の色々
な魚がのっていた。ぼくは、時間がたつのを
忘れてページをめくっていった。
 気がつくと、めくりすぎた図鑑の背がボロ
ボロになっていた。
 しばらくすると、両親が全く同じ図鑑を買
ってくれた。朝からばんまで読んだ。何ペー
ジにどの魚がのっているか、その魚の特ちょ
うは何かまで覚えた。そして、魚の世界に引
き込まれていった。のっぺらぼうのヌタウナ
ギ、シャチとブリが合体した名前のシャチブ
リ、さか立ち名人のヘコアユ……。やっぱり
この図鑑も、背がボロボロになった。茶色い
ガムテープで丁寧に修理を重ねたこの本は、
今でもぼくの大切な宝物だ。
 水族館にもよく通った。四才の頃はピーク
で、三日に一回行くこともあった。そのおか
げか、マダラトビエイがぼくを覚えてくれた。
大きな黒潮大水そうにぼくが近づくだびに、
水玉もようの大きな胸びれを上下にパタパタ
と動かして、あいさつをしてくれた。幼かっ
たぼくは、それがとてもほこらしかった。そ
して、何だか特別な気がした。
 時は、二千二十七年。ぼくは、大学院を卒
業し、魚の研究をしている。最近は、温暖化
現象等の環境の変化で、ぼくが幼い頃には日
本でしか見られなかった魚が、世界中で見ら
れるようになった。今、ぼくは色々な国の魚
をつかまえ、その生態等を調べるためにあら
ゆる海に行っている。おととい、アラスカ州
でつかまえたユウゼンは、元々日本のあたた
かいところにしか生息していなかった。南の
魚が、北の国で生きるには、体のどこの部位
がどのように変化したのか。進化した部位は。
退化した部位は。そのようなことを調べたら、
ユウゼンが北に生息している理由が分かるは
ずだ。ぼくはそういった研究をしているのだ。
 ふと思い出した。四才の頃に、ぼくのふる
さと錦江湾で「モモイロカグヤハゼ」という
新種が発見された時、ぼくは母にねだって、
その魚の標本がある鹿児島大学につれていっ
てもらったことを。大学の研究室は、初めて
見るものがいっぱいあった。生きているサカ
タザメを見て目を丸くしたり、ホルマリン漬
けの標本の魚は死んでいることに気づき、シ
ョックを受けたり……。こうふんして、色々
な魚の名前を言いながら見てまわっていたら、
大学の先生に、
「きみは、魚をよく知っているね。」
と、声をかけられた。ぼくは、とても嬉しか
った。
 その時からなのかもしれない。将来、魚博
士になりたいと強く思ったのは。
 今、ぼくの研究室には、あの頃の自分のよ
うな子供が沢山来ている。なぜならぼくは、
自分の研究内容を多くの人に知ってもらうた
めに、研究室の一般開放をしているからだ。
子供たちは、珍しい魚やきれいな魚に目を輝
かせている。すると、一人の男の子が、ぼく
に話しかけてきた。
「お兄ちゃんみたいになるには、どうしたら
 いいの。」
ぼくは答えた。
「大切なことは、『魚が好き』という気持ち
 だよ。ぼくは小さい頃、図鑑の中に見たい
 魚がいたら、すぐに水族館につれていって
 もらったよ。目的の魚だけ見て、十分で帰
 ることもあったよ。みんなは『せっかく水
 族館に行ったのに、信じられない。』と言
 ったけれど、ぼくはその魚を見ることがで
 きたから、それで充分満足だったんだ。き
 っと、魚について知りたいことがあったら、
 すぐに調べたかったんだろうね。そういえ
 ば、小学生の時は、近くの高校の図書室の
 先生に頼んで、すごく詳しく魚がのってい
 る図鑑を、かしてもらったこともあったな
 あ。とにかく、大好きな魚を見て、調べて、
 そして、触れ合うことが一番かな。そうし
 たら、夢はきっと叶うよ。」と。
 二千十二年。ぼくは、今、小学四年生。未
来に向かって、また一歩踏み出そうとしてい
る。
「ねえ、お父さん。パソコンを開いてもいい。
 世界にはどんなシビレエイがいるのかを調
 べたいんだ。」

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